記者: Pema Levy  翻訳者: 加藤仁美 | 2013年7月1日 13時36分 更新

NSA機密情報漏えい:スノーデン氏はスパイ、憂国の士、自由論者、共産主義者、それとも謎の人物か?

米国家安全保障局(National Security Agency: NSA)による個人情報収集プログラムの存在を暴露してスパイ行為などの罪で訴追された米中央情報局(CIA)元職員、エドワード・スノーデン(Edward Snowden)氏に関する多くの報道が続いている。それにもかかわらず、同氏は米国史上における謎の人物になりつつある。

エドワード・スノーデン氏を支持して抗議活動を行う人々は、中国・香港の米国領事館前のデモの間も同氏の写真を掲げた。 彼が起こした事件は情報の曝露だが、答えよりも多くの謎が存在する。最初の疑問は、NSA情報技術専門家の同氏が、どのような方法で同局の極秘諜報文書を入手したのかだ。そしてスノーデン氏の事件で絡み合った国と人に、どう対処すべきか? そこには、米政府、ウィキリークス(WikiLeaks)創設者ジュリアン・アサンジ(Julian Assange)氏、中国、ロシア、南米エクアドル、そしてリベラル派と保守派のもつれた争いが介在する。

 メディアは、米ハワイでスノーデン氏の家族、友人、隣人に取材を試みた。しかし多くを知ることはできなかった。フェミニスト・ライター(作家、批評家)のナオミ・ウルフ(Naomi Wolf)氏はフェイスブック上で、スノーデン氏が「警察国家の関心事」に力を尽くす米政府のまわし者であるとしている。一方で、スノーデン氏は中国の二重スパイであるという見方や、「中央情報局(CIA)とNSAの際限のない縄張り争い」に影響を与えて三面的な関係を持つ行為だと見るものもある。

 先週、スノーデン氏の香港の隠れ家から、同氏が書き残した英ガーディアン紙の取材に対する質疑応答メモが見つかった。そこには「残念なことに、主要メディアは現在、私の発言にあまり興味を示していないように見える。実際には人類史上最も疑惑に満ちたプログラムだというのに」と書かれていた。

 ガーディアン紙とワシントンポスト紙が、NSAによる大量の個人情報収集に関する記事を発信してから3週間となる。スノーデン氏によると、NSAは大手通信事業者、ベライゾン・ワイヤレスの加入者に関する通話情報を収集していたという。

 これらの記事によると、NSAはほぼ米国全土の電話と、米国外との電子メールのやりとりからもデータを収集していたとされる。諜報機関当局は米国人の電子メールは、これらのデータ収集では一掃されると述べている。このニュースが伝えられると同時に、29歳(当時)の契約労働者スノーデン氏が、NSA内部告発者として浮上した。

 信じられないという反響と共に、その後、この事件に2つの問題が並行した。1つは地球上最も強力な国として勢力を誇る米政府が、大陸間を逃げ回る逃亡者の身柄確保に乗り出したことだ。もう1つは、スノーデン氏による文書がガーディアン紙により公表されるにつれて、米政府の大量の情報監視に徐々に注目が集まっていることだ。

 6月23日、スノーデン氏は、今も滞在していると見られているロシアへ向かうために香港を離れた。おそらく、モスクワのシェレメチェボ国際空港のトランジットゾーンで、以前、別の政府機密文書を開示した「ウィキリークス」の支援により、エクアドルへの亡命申請の許可を待っていると見られる。エクアドルは米外交機密文書を暴露した「ウィキリークス」代表で創設者のジュリアン・アサンジ(Julian Assange)氏の亡命も認めた経緯があるため、スノーデン氏は同国を最適の亡命地とした模様だ。

 しかし、スノーデン氏のエクアドル入国の希望は曇った。エクアドルのコレア大統領は6月29日、国民への定例演説で、スノーデン氏の亡命申請を拒否するよう、ジョゼフ・バイデン米副大統領から電話で要請されたことを明らかにした。この件については、結論を下す前に米政府と協議すると話したが、最終的な判断はエクアドル政府が行うと述べた。

 コレア大統領はバイデン副大統領からの電話に「われわれは米国を尊重しており、このような状況を望んだわけではない。悪意のある一部のマスコミが報道しているように、われわれが反米国であるなどと思わないでいただきたい」と話したと明かした。

その上でスノーデン氏は現時点でエクアドル国内にいないため、同容疑者の亡命申請についてエクアドル政府は手続きを始めることはできないとした。同氏がエクアドルの地を踏んだら、もし実際にそのようなことが起きたら、亡命申請の手続きを行わなければならないが、同国が最初に意見を求める相手は米国だと話した。

エドワード・スノーデン氏を支持して抗議活動を行う人々は、中国・香港の米国領事館前のデモの間も同氏の写真を掲げた。 依然としてスノーデン氏の居場所に注目が集まっている。カメラ機能付き携帯電話が偏在する現代において、モスクワの空港にいると見られる同氏の存在を誰も明確に捕らえられないのはなぜだろう? ロシア政府が同氏をゲスト、秘密を握る人物、政治難民、スパイ、特別な存在として待遇しているからだろうか? 米政府によると、中国とロシアからの同氏の送還は実現されていない。中国、ロシアともにスノーデン氏の自由を認めている。

 6月27日、バラク・オバマ米大統領は、この問題を軽く取り扱おうとした。「私は29歳のハッカーの身柄を確保するために、大きな危険を冒そうとは思わない」と大統領は記者に話した。この言葉は信じてよいのか? いずれにしても、覆水盆に返らずで、スノーデン氏の問題は現実に起こっていることなのである。

 米国の多くの政治家にとって、6月21日に30歳になったスノーデン氏への態度を決めるのは、同氏が明るみに出した事柄以上に危険の潜む行為である。常に強力な国家安全保障機構の上に立っている政治家は、スノーデン氏に反対すべき立場だと知っている。一方、政府の透明性を思えばスノーデン氏の行為に同情も沸く人々にとって、スノーデン氏の問題に対処するのは簡単ではない。同氏による情報漏えい問題の調査に協力しようとする政治家もいる一方、同氏を称賛する者や、ぎこちなく連携を表明する者もいるだろう。

 米国上院議員ランド・ポール(Rand Paul)氏は共和党所属、米ケンタッキー州選出のリバタリアンだ。当初、同氏はスノーデン氏を擁護した。ポール氏は「プライバシーの名の下に真実を告げた」とウィークリー・スタンダード誌に語ったが、その後スノーデン氏は海外政府から支援を求めているとして、同氏を擁護する姿勢を変えた。そして「スノーデン氏が、ロシア、中国などと親密な関係を結ぼうとしているなら問題だ」とポール氏は述べた。

 デンバー・ポスト紙によると、民主党所属オレゴン州選出のロン・ワイデン(Ron Wyden)上院議員と民主党所属コロラド州選出のマーク・ユダール(Mark Udall)上院議員は共に、NSAの情報監視プログラムに警告を発してきたと報じた。ワシントン・ポスト紙によると、2人の上院議員は、監視当局による秘密の情報収集に関して米司法省へ公式書簡を送り示唆したという。ユダール氏が警告を発して機密扱いされていたプログラムは、その後、公開された。またユダール氏は、NSAの監視権限の抑制を進めるために「米国愛国者法」(USA Patriot Act)と呼ばれる法律の抑制を推進している。

 「米国愛国者法」は2001年の同時多発テロを受けて制定されたもので、米国政府が国内外のテロ組織と戦うことを表明し、特定の権限を当局に認めた法律である。同法律では電話による記録の収集は合法とされる。ユダール氏は長年にわたり、当局によるこれらの活動を広報し、その抑制を訴えてきた。だがスノーデン氏がロシアに向かった際にユダール氏の事務所はコメントを控えた。

 ポール氏とユダール氏以外にも、スノーデン氏がリークした文書が明らかにしたNSAの監視プログラムに対して賛否両論で関与してきた多数の議員が存在する。共和党所属でオハイオ州出身のジョン・ベイナー(John Boehner)下院議長や民主党所属でカリフォルニア州出身の元下院議長ナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)氏などだ。また、オバマ大統領は、プログラムが自由とセキュリティの適切なバランスを保っていると述べている。

 スノーデン氏は多くの批判を受けてきた。同氏の決断は、確かに彼の存在を知らしめる1つの要因になっていて、多くの批判の焦点にもなっている。彼が中国とロシアへ逃避した事実、そして噂が正しければ、キューバやエクアドルへの入国希望は、米国の議員たちに自らの正当性を問いかける新たな機会を提供した。

 6月に同氏は香港で複数の新聞社(ガーディアン、ワシントン・ポスト、サウスチャイナ・モーニング・ポスト)の取材を受け、これらのメディアを通してNSAによる個人情報収集について告発した。メディアによるインタビューでスノーデン氏は、目的は、米政府の監視活動を公衆に警告することだと述べている。米政府への献身と秘密情報の使用許可の狭間で、これ以上偽善者ではいられなかったと同氏は述べた。しかし、その後の同氏の逃避に、彼は偽善者であると批判の声も挙がっている。

 スノーデン氏に対して「犯罪者」「反逆者」などの言葉を使う議員もいる。民主党所属、ニューヨーク州選出のチャールズ E.シューマー(Charles E. Schumer)上院議員は、「スノーデン氏は過去に偉大な人権活動や市民的不服従を行った人物、例えばマーティン・ルーサー・キング(Martin Luther Kings)氏やガンジー(Mohandas Karamchand Gandhi)氏とは異なる。スノーデン氏は米国から逃げ出したのだから。ダニエル・エルズバーグ(Daniel Ellsberg)氏は『アメリカで最も危険な男』として知られている。米軍アナリストで、熱心なウィキリークス支持者でもある彼は1971年、国防総省スタッフとして作成にたずさわったベトナム戦争遂行に関する最高機密報告書(ペンタゴン・ペーパーズ)を暴露し、ニクソン政権によって指名手配された。エルズバーグ氏はそれを行うのが正しいと思った。そして米国に留まり結果と向き合った」と述べた。

エドワード・スノーデン氏を支持して抗議活動を行う人々は、中国・香港の米国領事館前のデモの間も同氏の写真を掲げた。 同様に民主党所属カリフォルニア州出身ダイアン・ファインスタイン上院議員は、監視プログラムの忠実な擁護者だが、スノーデン氏は米国に滞在して自らが招いた難局に進んで当たるべきだと述べた。また米ニューアーク市長のコーリー・ブーカー氏は、「身をかわす者に市民的不服従の言葉はあてはまらない」と述べた。

 スノーデン氏に対する米政府の嫌悪感は自己防衛メカニズムであると、スティーブン・アフターグッド(Steven Aftergood)氏は説明した。同氏は、米国科学者連盟で政府機密プロジェクトのディレクターとして、政府に透明性を長年提唱してきた。「スノーデン氏の懸念が確実なものなら、政府全体が非難されることになる。スノーデン氏が曝露した監視プログラムは米国議会で知られており、秘密裏に実行された。もしスノーデン氏が正しい場合、議会はその監視義務を怠ったことになる」とアフターグッド氏は述べた。

 機密文書漏えいに対する米連邦議会の政治的攻防は、アフターグッド氏が述べた自己防衛を行おうとしているようだ。市民の自由に関する基本的人権を保護すべく、民主党と共和党が同調する場合があることは事実だ。しかし、議員がワシントンの権力構造を登りつめるほど、秘密情報に関与する権力中枢部に入り込むことになる。秘密情報を知ることで、議員はそれを保護しなければならない束縛も感じる。

 例えば、今週ガーディアンが報じたNSA監視プログラムに関する一般報告書は、民主党のぺロシ氏が、ブッシュ政権の正当な理由のない盗聴プログラムに関与したと伝えた。スノーデン氏に対するペロシ氏の否定的な反応は、この文脈からすると理にかなっている。彼女は先週末、カリフォルニアでのプログレッシブ会議で非難をあらわにした。CNNによると、ぺロシ氏は「スノーデン氏の行為を英雄的とみなす人々もいる。再三にわたり述べてきたが、それは米国の安全保障の責務を担っていない」と語った。

 スノーデン氏の行為にアフターグッド氏も意見を述べた。「市民的不服従の観点から言えば、不正を強調するために法律に違反した場合、その行動に責任を取るべきだ」とアフターグッド氏は語った。「キング牧師は、アラバマ州バーミンガムの法律を破ったとき、進んでバーミンガム刑務所で服役した。それはプロセスの一部であり、その行動が、変革をもたらすための効果的な擁護者を見出した。スノーデン氏が法律に違反してエクアドルに逃げた場合、同氏は公民権指導者とは位置づけられないと思う」と同氏は述べた。

 スノーデン氏が米国に戻った場合、ワシントン・ポストが関与した形で、スパイ法に基づく主張も含めた告訴になるとアフターグッド氏は見ている。それはスノーデン氏が香港でのワシントン・ポストなどのメディアの取材により、NSAによる個人情報収集について告発したためだ。アフターグッド氏はスノーデン氏が有罪を逃れることは可能だとしている。また公的支援が要因となり最高刑は避けられるとしている。「おそらく、裁判はスノーデン氏が求めた問題に光をあてる最適の場になるだろう」とアフターグッド氏は述べた。

 ただし、どのような刑にスノーデン氏が服することになるかはわからない。スノーデン氏自身は、公正な裁判に直面することはないので帰国できないと述べている。ジョージタウン大学の国際関係学の専門家アンソニー・クラーク・アレンド(Anthony Clark Arend)氏は、スノーデン氏が冷戦時代のスパイであるジョナサン・ポラード(Jonathan Pollard)氏やロバート・ハンセン(Robert Hanssen)氏、オルドリッチ・エイムズ(Aldrich Ames)氏のように扱われるのでないかと予測した。彼らは皆、終身刑を受けた。「政府は、同様の行為の再発を防止するための前例として刑を定めるのではないかと思う。少なくとも20〜30年の刑期になるのではないか」とアレンド氏は電子メールで答えた。

 もちろん、スノーデン氏はエイムズ氏らのように、米国の敵に情報を売っていない。前述した議員の中には、スノーデン氏はわずか1度だけ漏えいの機会を持ち、スパイとしてより重い言葉である「告発者」には値しないと主張している者もいる。一方で、スノーデン氏による情報漏えいは、同様にスパイ法に基づき起訴されたNSA内部告発者のトーマス・ドレイク(Thomas Drake)氏よりも深刻である。

トーマス・ドレイク氏はNSAの浪費や不適切な管理、憲法違反の疑いのある活動を報道機関に告発したため、当局の迫害を受けた。スパイ防止法に違反したとして起訴され、最長で35年の投獄という危機に直面した。しかし実際の起訴状には、スパイ行為の具体的な指摘はなく、政府の機密文書を自宅地下室に保管していたという微罪しかなかった。結局、この微罪をドレイク氏が認めるかわりに他の容疑はすべて取り下げるという司法取引が成立した。

 ドレイク氏の事例は、財政的にも感情的にも政府との長い法廷闘争によってダメージを受けた人について明確にした。リバタリアン主義のカトー研究所のジュリアン・サンチェス(Julian Sanchez)氏は、スノーデン氏の裁判について、かなりの犠牲が求められるかもしれないと感じている。サンチェス氏によると、ドレイク氏は現在、アップル社のコンピュータ店でデバイス調整業務に就いているという。良い形でこの件は終わったとサンチェス氏は述べた。

エドワード・スノーデン氏を支持して抗議活動を行う人々は、中国・香港の米国領事館前のデモの間も同氏の写真を掲げた。 スノーデン氏に関して騒がれている問題は、同氏の動機であり、それ以上に彼が明らかにした内容に焦点が当てられているとサンチェス氏は言う。もしスノーデン氏が明かしたことが事実なら、メッセンジャーを攻撃することはできない。

 30日のNHKニュースは、ドイツの週刊誌「シュピーゲル」の電子版が、NSAは米国などにあるヨーロッパ連合(EU)の施設でも、それぞれのコンピューターネットワークに侵入し、盗聴や電子メールの傍受を行っていたと伝えた。また5年余り前には、ベルギーのブリュッセルにあるEU本部でも盗聴が行われたと伝えた。「シュピーゲル」によると、これらの行為はスノーデン氏が保有するNSAの「極秘文書」により明らかになったということだが、「シュピーゲル」がどのようにして文書を入手したのかについては触れていない。

 NSAが個人情報だけでなく、外国の政府機関の内部情報も収集していた疑いが明らかになったことで、今後、各国などから米政府への批判が強まることも予想される。

 スノーデン氏によって自らの信頼性が危険にさらされたと感じるワシントンの当局者は、スノーデン氏個人への攻撃を行うだろう。同氏についてほとんど知らなくても攻撃するのが政治的な戦術だ。その後メディアがやってきて、あれこれコメントをかき集めて特集記事を書き、その反響はスノーデン氏を煽るとサンチェス氏は語った。結局のところ、ワシントンで記者によりリークが実行される。「国家安全保障に関してジャーナリストは、何らかの点で信頼と対峙している。秘密情報の使用について誰かと語るには、法律上想定されないことについて語ることになる」とサンチェス氏は述べた。

 スノーデン氏について確実に言えることは、彼が米国政府の重要なパラダイムを混乱させたということだ。3週間前に発生した情報漏えい事件は「重要機密の公知と、機密プログラムに関する議論に発展した。変革は既に発生しており、まだ終わっていない」とアフターグッド氏は述べた。

 *この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。