モンベルに見る組織人間ファーストの理念 (2023/08/25)

モンベルは1975年に創業した日本を代表するアウトドア用品の総合メーカーで、年商940億円、従業員数約1200人の大企業です。エベレスト登山にも耐えれる世界トップレベルの製品を安価で提供する姿勢は根強いファンをつかんでおります。


社長の辰野勇氏は創業5年目で社員数は社長を含めてわずか12名の時に「5年後、10年後のビジョン」を見据えて雑誌のコラムでこう語りました。

当時の「創業を共にした仲間たちと、できれば一生一緒に仕事をしたい」と願った私は、「組織の平均年齢を常に若く保たなければならない」ことに気づいた。

さもなければ、年々増え続ける給与をまかなうことが出来なくなる。
既存の社員を確保しながら平均年齢を低く保つには、毎年若者を受け入れなければならない。

必然的に組織は拡大し、結果として売り上げ規模も大きくせざるを得ない。

即ち、売り上げを伸ばすために人を増やすのではなく、人を増やすためには売り上げ規模を拡大しなければならないというロジックに気づいたのだ。

通常、組織が拡大するのは、売上拡大にあわせて人員を確保するというイメージが一般的ですがこれは全く逆の発想です。
                 


この会社にはいくつかの特徴があります。

(1)非公開株式会社

世のほとんどの大企業は公開された株による株式会社です。その株は国籍を問わず誰でも買うことができますし、企業の実質的なオーナーは株主です。

つまり、お金を持っている外部の人がその会社を自由に操ることが可能であることを意味します。操るとまでいかなくても、株主利益を追求せざるを得ません。

しかし、非公開であれば、他人によって 経営理念が崩されることはないのです。


(2)マーケッティングを行わない

普通の会社は、マーケッティングを行って消費者が何を求めているのかを探り、商品開発を行います。しかし、モンベルは、社員が欲しい商品を開発します。


(3)社員全員がアウトドア好き

どの会社で通常は働いている人の趣味がその会社で製造しているものの分野とは限りません。しかしモンベルに至ってはアウトドア好きの人しか働いていないのです。


(4)社員募集をしない

ホームページで告知はしておりますが、基本的には積極的に社員募集の努力はしておりません。


(5)社員全員に商品企画提案の機会がある

すべての人が企画に参加し、それが実現するのを見ることができます。それによって、自分が会社を所有しているという実感を得ることができるのです。


(6)外部からの知恵を借りない。

そのようなわけで、 コンサルタントも外部のデザイナーもおりません。(まあ、だからデザインがいまいちという意見もありますが)


(7)ラインナップが広く深い

商品のレパートリーでいうならおそらく世界一のラインナップのレベルです。それでも、あらゆる分野をまんべんなくカバーしているわけではありません。

しかし、その反面時にはびっくりするほど特殊な用途の製品も存在します。

それは、社員が自分の欲しいものを商品化するからです。


(8)儲かったらよいというわけではない

1980年代の成長に一役買ったのは、米パタゴニア製品の国内販売の代理店となることで、一時は売り上げの25%を占め、おいしい蜜でした。

しかしそれは「自分たちが欲しいと思う製品を作る」という経営理念に反するということであっさりやめました。


(9)人を育てる

パタゴニアの代理店を辞めた理由はほかにもあります。
輸入して販売する仕事ではモンベルの理念を体得した人を育てることができないからです。

商品企画や、それを実際に使ってみての生きたフィードバックは所有感のある自社製品でなければ成り立たないのです。


(10)価格が安い
もちろんユニクロに比べたら値段は高いです。しかし、ノースフェイスに比べたら同じ性能の場合は圧倒的に安いです。生と死を分けるほどの冬山などのシビアな現場の使用に耐える製品(※)であり、登山家が製品を選ぶ基準は「モンベルより安い製品は使い物にならない。 」というものですが、それは値段の意味であって、モンベルが最低限の品質という意味ではありません。

※ 登山家の間ではよく知られた話ですが、ユニクロのヒートテックを着て冬山登山をすると命の危険があると言われています。見た目は同じでも素材やコンセプトに差があるのです。


(11)ファンが多い

モンベルの会員数は108万人です。今日多くのメンバーシップ制度は無料で会員になれるのでそのくらいの数は珍しくありませんが、有料なのにそこまで会員数がいるというのは多いと思います。


今回紹介した記事は、一つの会社の一つの事例にすぎません。

外部のコンサルタントやマーケティング調査を受けないのであれば、経営的には間違った判断をしてしまったり、うまくいかないこともあったことでしょう。 それでも、普通とは異なる会社の運営方針を見るときに、教会運営に役立てるヒントのようなものがあるかもしれません。