中国人が、日本のコロナ感染状況が気になって仕方がない理由

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王 青:日中福祉プランニング代表
国際・中国 DOL特別レポート
2020.3.12 5:20

トイレットペーパーの買い占め騒動は中国人から見ても衝撃的だった
日本でのトイレットペーパーの買い占め騒動は中国人から見ても衝撃的だった Photo:Sipa USA/JIJI

世界各地で新型コロナウイルスによる感染者と死亡者が拡大する中、「震源地」である中国では感染者数が減りつつあり、ようやく終息へと向かい始めた。早くも「ウイルスに勝利した」という雰囲気が漂い始め、関心は他国の情勢、とりわけ隣国・日本の感染状況に向いている。(日中福祉プランニング代表 王 青)
中国のコロナ対策は
「終息」が見え始めた

 新型コロナウイルスによる感染が世界各国で猛威を振るっている中、中国ではようやく「終息」という出口の光が見え始めた。

 武漢を含む新規の感染者数が連日で二桁までに減り、回復した患者の人数が増えてきた。武漢市内に建設された仮設病院も閉鎖され始めている。経済活動も各地で再開の動きを見せつつ、徐々に普段通りの生活に戻り、明るいニュースが次から次へと報道されている。

 その一方で、日本や韓国、イタリアなどのヨーロッパ諸国、イラン、アメリカなど世界各国の感染者数は日ごとに増えていき、対応に追われている。

 このような状況に対し、既に中国では多くの人が自国よりもむしろ、海外の情勢に注目し始めている。特に隣国の日本の感染予防対策に異論を唱えることが多い。

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日本の対策に「上から目線」で意見する声も

 


 実際、SNS上の掲示板などでは、下記のような書き込みが目立つ。

「日本はわが国のように手際よく管理する能力はないだろう」

「日本の“仏系”予防対策が緩くて驚きだ」(“仏系”はもともと日本由来のスラングで、気にしない、こだわらない、淡泊といった意味)

「日本はわれわれの宿題を写すことさえできないのだ」(自分たちの経験ややり方が目の前にあるのに参考しないとの意味)

 など、既に「コロナウイルスに対する勝利者」という立場で語り、いわゆる「上から目線」の雰囲気さえ感じられる。
「ウイルス封じ込め」の犠牲は
決して少なくない

 確かに「武漢封鎖」をはじめ、「ウイルスを抑えるのにすべてを惜しまない」という中国政府の意気込みは凄まじかった。全国一斉に徹底した強硬措置を講じながら、ITの力をフルに発揮させ、14億の人口を有する巨大国家の舵をスピーディーに切った。その結果、「ウイルスの封じ込め」に成果を上げつつあるのは認めざるを得ない。

 そして、中国政府は早くも「一連の強硬策が奏功した」という“中央集権の優位性”を世界に向けてアピールしている。

 しかし、この状況を冷めた目で見ている国内外の中国人も少なくない。

 実際、この「いかなる代償も惜しまない」という強行措置でもぎ取った「成果」の裏では、国民にどれだけの犠牲を強いて、経済や人々の生活にどんな大きな影響をもたらしたことか。

 その犠牲は、決して少なくはなかった。
武漢をはじめ
各地の医療現場は混乱した

「震源地」である武漢が1月23日に封鎖されてから現在までもう50日近くになる。1月中旬から感染が蔓延している中、この1100万人の都市はパニックになった。人々は医療機関に殺到し、大勢の患者が病院の中に入りきれず、外にまであふれていた。医療現場は混乱状態になり、完全崩壊の寸前にまで至った。そして、多くの医療従事者が感染した。現在の統計では約3000人が感染して生死をさまよい、10人が命を落とした。

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その女性は親の死に目に会えなかった

 


病院は通常の外来診察をやめ、新型肺炎の治療を最優先せざるをえなかった。このため、新型肺炎以外の患者は治療してもらえないという事態に陥った。その結果、人工透析が必要とされる人や治療中のがん患者、持病がある人々が自宅で苦しみながら亡くなった。まさに二次災害だ。

 当然ながら、新型コロナウイルスに感染したたくさんの患者も、当初は入院できずに自宅で亡くなった。苦しみのあまり高齢者がマンションから飛び降りて自殺するなど、目を覆いたくなる惨状も繰り広げられた。こうした死者の数字は、統計として表には出てこない。

 また、全国各地から医療支援部隊の約3.5万人が武漢に派遣されたため、上海などの大都市の医療機関も一時、外来を停止せざるをえなかった。ようやく再開した日には、人々が冷たい雨の中、病院の玄関から延々と長い列をなしている写真がSNSに投稿された。

 このように中国各地の医療機関にも大きな影響を及ぼしていたことは、あまり国外には報道されていない。
クルマで間違って武漢に来た女性は
親の死に目に会えなかった

 健常者であっても、生活はきつい。

 武漢の市民は42日間、自宅から一歩も出ず、外の空気を吸うことができず、青空を眺めることができない。このような事態が延々と続く「先が見えない生活」はどんなに苦しいことか、容易には想像がつかないだろう。健康な大人も、活発な子どもも一律に自宅に閉じ込める生活を強いられている。

 突然の武漢の閉鎖や交通網の遮断なども多くの悲劇を生んだ。

 武漢の封鎖と各地の幹線道路の遮断・封鎖、農村部の村民の移動禁止により、人々は身動きができなくなってしまった。

 特に武漢の閉鎖直前にたまたま来ていた人々、あるいは、たまたま武漢を出た人々は、そのまま足止めされてしまい、どうしようもなくなってしまった。家族とは離れ離れになり、仕事場にも戻ることができない状況が今も続いている。

 ある中年の女性は危篤の母親と“最後の対面”をするため、クルマで入院先の病院へと急いでいたが、不幸なことに高速道路の出口を間違えて武漢で下りてしまった。結局、母親の看取は叶わず、一生悔いが残る結果となってしまった。

 また、武漢に働きに来ており家を持ってない農民工(農村出身の日雇い労働者)は行き場がないため、駅周辺に寝泊まりして、毎日3食を支援のカップラーメンで過ごしている。

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多くの労働者が働けずに生活難に直面している



多くの労働者が働けずに
生活難に直面している

 外出禁止などに伴うストレスなどで精神面への影響も大きい。

 全国に号令をかけた「マスク着用、外出禁止、自宅勤務、学校休校」などの措置に、中国の国民一人ひとりが協力し、「自宅から出ないのが社会への一番大きい貢献だ」と、黙々と耐えて過ごしてきた。

 外食はもちろん、親戚や友人とも会ってはいけない、人々の集まりも禁止されていた。そんな中で、これらの規制を順守しなかった人に対して、罰金、強制隔離、拘束、暴力的振る舞い、平手打ちなど、法的な根拠のない人権侵害のような行為が各地で起こった。

 社会や経済面への影響も出始めている。

 現在でも、多くの地域で道路を封鎖していたり、外出禁止の状態である。物流が滞っている中、さまざまなコストが上がり、物価が高騰している。一番問題となっているのが、多くの労働者が仕事に就くことができずに収入がなくなって、生活難に直面していることだ。

 ただでさえ経済格差の大きい中国では、「自分の命より家族を養うためのお金の方が大事」という状況に置かれている人がまだまだ多い。統計では62.6%の人が非正規雇用者である。これらの人々はたとえばデリバリーの従業員、飲食店や屋台の店員、タクシー運転手、旅行社のガイド、中小企業の従業員などだ。そして、農村部の農民は、作った野菜や果物を外へ運ぶことができずに莫大な損失を被っている。

 これらすべて、国民が「代償を払っている」ということだ。長い歴史から見れば、ほんの一幕にすぎない出来事でも、個々人にとっては人生が変わってしまうほどの出来事だ。
多くの中国人にとって
日本は理解が不能

 一方、日本は民主主義の国であり、中国のように一斉に強硬な命令を強制できない。

 日本は現在、「イベント自粛、時差通勤・リモートワーク推奨、休校要請」などの対策を講じながら、医療体制を崩壊させないように、原則的には「軽症の人は自宅療養、重症の患者にベッドを確保」というように、患者の状態によって優先順位を付けた方針を明らかにしている。その理由は、仮にコロナウイルスに感染しても「8割が軽症であり、自宅で安静にすれば治る」という理由からだ。

 また、日本では人々が概ね支障なく、普通に自由な日常生活が継続できている。マスクやトイレットペーパーなどが手に入らないこと以外は、スーパーには食材が充実し値段も安定している。街には普通に人々が行き交い、大勢の人で賑わっていた有名観光地を除けば、休日には地元の商業施設などでは相変わらず人が出ている

 中国とはあまりに対照的であり、中国人には信じられないことである。

 


中国の人々から見れば、日本のこのように普段と変わらない日常風景は、「緊張感がない」「日本は緩い」と見える。

 また、日本政府のあらゆるコロナウイルス対策に対して、逐一、日本の野党やマスコミ、大勢の人たちが批判している。

 これも中国人の目には不思議な光景であり、「理解不能」である。

 例えば、2月末に安倍首相の「一斉全校休校の要請」に対して、一部の自治体の知事や市長が反対したことに対してSNSでは、

「中央政府の言うことを聞かなくていいんだ、すごい!個性が強いね、中国だと首が飛ぶよ」

「この非常事態に国をあげて団結して乗り越えていくのではないの?」

 などのコメントであふれた。
大多数の中国人にとって
日本の今後が気になって仕方がない

 大多数の中国人から見れば「あまりにユルすぎる日本」は今後、どうなるのか――。

 今回のウイルス対策に、多大な犠牲と我慢を強いられてきた中国人にとっては、非常に気になって仕方がない。

 日本の人々の様子や日本政府の対応に、敏感に反応してSNS上でコメントし批判したりするのも、自分たちが払ってきた犠牲や境遇を考えたり、納得したりするために必要なことなのだ。

 また、多くの中国人は当初日本の人々から受けた支援に対する恩を忘れてはいない。そのため自分の身内のように心配する人も多い。

 現在のところ、日本はイタリアや韓国などに比べると、感染者の人数が爆発的には増えていない。死者の人数もそれほど多くない。無論、大勢の専門家が指摘するように日本のPCR検査数が少ないことが背景にあるのかもしれない。今後、検査数が増えたらどうなるのか…。それとも封じ込めに成功しつつあるのか…。

 大多数の中国人から見て、日本は「自由な民主主義国家」「民度が高い」と評価される国である(その民度が高いはずの日本で、トイレットペーパーのようなものの買い占めが起きたことは、多くの中国人にとっても衝撃であった)。

 これから日本が「自由」を大事にしつつも、一人ひとりが国の対策に協力し、自らの力で感染拡大を阻止して封じ込めに成功するのか。それとも、「自由」を優先した結果、感染を拡大させてしまい、結果的に、東京オリンピックも中止という最悪の事態を招くのか…。

 14億人の中国人も、日本の新型コロナウイルス対策の成り行きを見守っている。