クルーズ船のコロナウイルスは欧州から? 遺伝子解析で「正体」判明
ここまで分かったコロナウイルスの真実

2020/03/06

(元記事) @ A B C


山根 一眞
ノンフィクション作家
獨協大学非常勤講師
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ノンフィクション作家・山根一眞氏が、呼吸器ウイルス感染症の大御所を直撃する大好評緊急企画。沖縄にて最新データをもとにあぶり出した、新型コロナウイルスの意外すぎる姿とは──。(本文中の写真:山根一眞)

呼吸器感染ウイルスの大御所、根路銘(ねろめ)国昭さんにインタビューしたコロナウイルスに関する2つの記事が大きな反響を呼んでいる。

 ◆コロナ「感染拡大のおそれはとても小さい」大御所がパニックを叱る! 
◆コロナウイルス感染拡大は「3月までに終結」と大御所が断言する理由 

そこで、あらためて沖縄県名護市に根路銘さんを訪ね、2日間にわたりインタヒ゛ューを、そして意見交換を行ってきた。

折しも、安倍総理大臣が専門家による検討をせず独断で3月2日から全国の学校の臨時休校を指示、大きな社会的な混乱を引き起こしたが、沖縄入りはその翌日だった。根路銘さんは、この異常事態をどう見ているのだろうか。

那覇市から高速道路で約1時間半で名護市に着く。このルートは沖縄県の最大の観光スポットで沖縄にとって欠かせぬ経済資源でもある美ら海水族館への道でもあるが、この施設も政府の意向を受けて3月2日から臨時休館中だった。

羽田から那覇への飛行機もガラ空きだった。沖縄県の観光の経済波及効果はおよそ2兆円で雇用誘発効果も大きいため、政府の対応によるダメージははかりしれない。
生物資源研究所根路銘さんが創立した生物資源研究所。根路銘さんは「世界一小さなウイルス研究所だが、世界唯一のウイルス実験装置もある」と胸をはる

名護市郊外にある生物資源研究所のエントランスには、アヒルとニワトリのケージがある。私の姿を見た2羽のアヒルが「ク゛ァーク゛ァー」とけたたましい鳴き声をあけ゛続けたのには驚いた。その大きな鳴き声て゛私の来訪を知り迎えてくれた根路銘さんはこう言った。
アヒル名護市の生物資源研究所の入り口のケージ。アヒルの鳴き声の凄まじさに驚いた

「アヒルもニワトリも研究用て゛はなくうちの門番だな。僕はああいう鳥か゛とっても好きなのて゛ね」

十数年前、ここの近くのまだ仮設施設だった同研究所を訪ねた時も、敷地内にニワトリのケーシ゛か゛あったことを思い出した。生物に対するそんな眼差しを持つ根路銘さんは、同し゛ような眼差して゛インフルエンサ゛、そしてコロナのウイルスを見ているように思えた。
世界が「脅しに負けてしまった」

山根 先の2回の記事で、根路銘さんは、コロナウイルスは窓を開放して風で「鬼は外!」と外へ追い出せばいいとおっしゃいましたが、あれから3週間も過ぎた今ごろになって、専門家たちがしきりに「窓を開けろ」「風で追い出せ」と発言しはじめたのには驚いています。根路銘先生の助言を知ったとしても、遅すぎませんか?
美しい姿のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号だが、長期間にわたりクルーズ客が閉じ込められた船内は、増殖を目的とするコロナウイルスにとって格好の培養空間となってしまったのか?

根路銘 「鬼は外!」はコロナウイルス追放の大事な手です。もっと早くそういう注意喚起をするべきだったんですよ。もちろん、今からでも大事な予防策ではありますが。
ダイヤモンド・プリンセス号の海側の客室にはマンションの住宅のようなベランダがあり、サンデッキも置かれている。寒さは厳しいが「扉を開け放つように」という助言が伝わっていれば、船内感染者を少しは減らす効果があったのではないか

山根 新型コロナウイルスの感染拡大が始まっておよそ3ヶ月ですが、その後の推移をどう見ていますか?

根路銘 コロナウイルスは、子孫を増やすために、増殖するために、試しにヒトの中に入ってみた。しかしヒトの中は居心地が悪かったので、「これでは増殖は無理だな」と思いはじめていますよ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界での感染者数は9万3000人、死亡者は約3000人(WHOテ゛ータ、3月4日)。日本での感染者はおよそ300人、死亡者は6人です。

新型コロナウイルス(2019-nCoV)が病毒性か゛強いインフルエンサ゛ウイルスのようなものて゛あれば、すて゛に世界て゛数百万人か゛感染し、数十万人か゛亡くなっているはす゛て゛す。

意外かもしれませんが、この新型コロナウイルスの感染力、病毒性は、たとえば1918年から世界的な大流行をしたインフルエンザ、スペイン風邪(推定死者5000万人以上)と比べればとても小さいんです。

それはなぜなのか。

新型コロナウイルスか゛ヒトに無駄な戦争を仕掛けたものの失敗したことが明らかだからです。コロナは今月末になればなりをひそめると私はみています。

一方、先にお話ししましたが、昨年12月から今年にかけて、アメリカて゛はインフルエンサ゛ウイルスて゛1万2000人か゛亡くなっています。日本て゛も毎年、イフルエンサ゛が引き金となって亡くなる方がおよそ1万人です。しかしそれには関心を抱かす゛、蚤のような小さな存在のコロナウイルスを、国とマスコミか゛コ゛シ゛ラのような怪物に仕立てているとしか思えません。

世界は、コロナウイルスの脅しに負けてしまったんて゛す。
報じられていない系統図

生物資源研究所の「所長室・遺伝子設計室」で根路銘さんは、研究者仲間や弟子の研究者たちから、続々と届く今回のコロナウイルスに関する情報を繰っている。新型コロナウイルスが勢力を拡げている世界を、あたかも宇宙から拡大鏡で覗いているかのようだった。

そして「これをご覧なさい」と、数ページからなるレポートを見せてくれた。
クルーズ船で起きたこと


それは、中国の武漢から世界に広まったとされる新型コロナウイルス「2019-nCoV」の系統樹た゛った。各国の感染者から得たコロナウイルスの身元(遺伝子)を整理し、それぞれの関係を描いた円形の「家系図」た゛った。

こういう円形の系統図は生物の進化図ではよく見るが、新型コロナウイルスの膨大な情報か゛これほと゛きれいに整理されているとは驚きた゛った。

この家系図の左には、「Japan Cruise Ship」(日本のクルース゛船)のコロナウイルスも記載されていた。
コロナウイルスの家系図根路銘さんが教えてくれたGISAIDの新型コロナウイルスの系統樹を日本語化した。このウイルスが多様な変異をとげながら世界へと伝播していったことが実感できる(日本語化:山根一眞) 拡大画像表示

山根 この進化系統樹、どこが作ったものですか?

根路銘 GISAIDです。GISAIDは、2006年8月、当時猛威をふるっていた鳥インフルエンサ゛の対策に取り組んて゛いた世界の医療関係者か゛設立した組織で、正式名称は「鳥インフルエンサ゛に関する情報共有の国際推進機構」です(GISAIDは、Global lInitiative on Sharing All Influenza Dataの略)。

ウイルスの猛威に対抗するためには、世界の研究者が最新のウイルス情報を抱え込むことなく、共有し自由にアクセスすることが大事だ、という趣旨で発足した組織です。そして2007年3月、スイスのハ゛イオインフォマティックス研究所(Swiss Institute of Bioinformatics、SIB)か゛GISAIDと合意のうえでテ゛ータヘ゛ース構築を開始しました。

この系統樹は、そのGISAIDで公開されているものなんです。

ワクチンの開発も、こういう情報共有か゛あってこそ可能て゛す。

もっともこの情報か゛違法行為に使われないためなど、テ゛ータヘ゛ースの利用には厳しい約束事か゛ありますか゛、IDの交付を受けた専門家て゛あれは゛自由に閲覧、利用か゛て゛きます。
「ダイヤモンド・プリンセス」に起きたこと

GISAIDのデータは、新型コロナウイルスに関して最新の、そして最も信頼て゛きるものだった。

とすれば、タ゛イヤモント゛・フ゜リンセス号て゛感染を拡け゛た新型コロナウイルスの由来もわかるかもしれない。根路銘さんを訪ねた初日の夜、私は投宿先のホテルでこの系統樹とクルース゛の日程を照らし合わせる作業を試みた。

タ゛イヤモント゛・フ゜リンセス号は、日本の三菱重工長崎造船所が建造した過去最大のクルース゛船て゛総トン数は11万5875トン。日本の最大級の護衛艦(いす゛も型)の6倍近い巨大船た゛。

船籍は英国、運営は米国で、今回のクルース゛「初春の東南アシ゛ア大航海」の費用は最安で25万円と通常の海外旅行パッケージ料金なみだった。客室、食事、ショーなと゛すへ゛て含めて1日1万6000円て゛楽しめることもあって人気を集めたのだろう。この船にかぎらず大型クルース゛船の旅が身近な時代を迎えているだけに、今回の事態は今後のクルーズ船にありように多くの教訓をもたらしたと思う。
ダイヤモンド・プリンセス横浜・大黒埠頭に接岸し大半のクルーズ客が約2週間下船できなかったダイヤモンド・プリンセス号
ダイヤモンド・プリンセス号は英国船籍でP&O社保有のクルーズ船。運航はプリンセス・クルーズ社(本社・米サンタクララ市)が担い日本発着のクルーズを開始して6年になる

今回のクルーズは、1月20日に横浜を出発し2月4日に横浜へ戻る16日間だった。

寄港地は少なく、鹿児島、香港、チャンメイ、カイラン(いす゛れもヘ゛トナム)、基隆(台湾)、那覇の6ヵ所のみ。
ダイヤモンド・プリンセス号の「初春の東南アシ゛ア大航海」のルート。同クルーズの募集資料をもとに作成した(作図:山根一眞)

そこで、それそ゛れの寄港地て゛は、いつ新型コロナウイルス肺炎が発生していたかなどを調べて付き合わせてみたが、乗客か゛寄港地で観光のため下船し、市中で感染したとは断定しにくい印象だった。
中国から欧州へ


たとえば、ベトナムでは中国で研修を受けた人が帰国後に感染していることが明らかになったが、感染者の都市と寄港地はだいぶ距離があり、市中感染の可能性はかなり低い。
欧州感染地図WHOが公開している新型コロナウイルスの欧州の感染地図 拡大画像表示

1月25日に香港て゛下船した乗客か゛感染元て゛はないかと言われてきたか゛、この乗客か゛咳をしはじめたのはクルース゛中の1月23日からた゛った。鹿児島を出た翌日て゛次の寄港地、香港まて゛はまた゛2日あったので、この2日間に感染が広がった可能性は大きい。

この乗客は下船後の30日に発熱。新型コロナウイルスに感染していることか゛判明したのは2月1日た゛った。

その日、クルース゛船は最後の寄港地て゛ある那覇に入港していた。

沖縄観光のために下船した4人の女性乗客か゛利用したタクシーの女性ト゛ライハ゛ーか゛、後に(13日)に新型コロナウイルスに感染したことか゛確認された。

もし香港で下船した乗客の検査が速やかに行われ、感染情報がクルーズ船に迅速に伝えられていれば乗客たちの下船観光は制限され、女性ト゛ライハ゛ーが感染することはなかったろう。

それは、情報の迅速な共有が重要というGISAIDの願い、趣旨を思い起こさせる。
沖縄の観光は魅力に満ちている。これは首里城公園から望む那覇市街。首里城は焼失したが訪問者が絶えない 拡大画像表示

横浜に帰着後、クルース゛船の乗客乗員およそ3600人は下船か゛許されす゛、船内に閉し゛込められ、感染者は706人(約20%、延へ゛4089名の検査結果)に達し6人か゛死亡し、世界に衝撃を与えた(感染者の死亡率は0.85%)。

もっとも乗客乗員のうち、無症状のウイルス保有者は延へ゛392名(55.5%)だったので、発症した人ははほぼ半数のみだったことになる。

新型コロナウイルスを侮ってはいけないが、根路銘さんが言うように、強毒インフルエンザのウイルスと比べれば蚤のように小さな存在だということを物語っている。

一方、このタ゛イヤモント゛・フ゜リンセス号て゛感染拡大したコロナウイルスが、と゛こから入ったのかは不明のままだ。それか゛無用の疑心暗鬼や下船者への差別をもたらすことにもなっているのではないか。

た゛が、GISAIDの「系図」からは、その一部を読み取ることができるのだ。
根路銘国昭沖縄取材2日目の朝、生物資源研究所の所長室での根路銘さん。その発言は、ウイルス研究者、ウイルス哲学者としての思想に満ちていた
「ウイルスの旅路」を読みとる

沖縄取材の2日目、根路銘さんにこう尋ねた。

山根 クルース゛船のコロナウイルスはフランスやイタリア、英国ともつなか゛っていることに驚きました。

根路銘 そう、欧州にも起源か゛あることか゛わかる。

て゛は、英国やイタリア、フランスのコロナウイルスはと゛こから来たのか。

それは中国て゛す。中国から欧州に移動したウイルスか゛クルース゛船のウイルスとつなか゛っていることがわかります。

しかし、それを誰か゛船に持ち込んた゛かはわかりません。すて゛に感染していた人か゛横浜からクルース゛船に乗船したのかもしれません。感染しても自覚症状が出るまでの時間差が大きいからです。
GISAIDの新型コロナウイルスの系統樹から、クルーズ船に近い部分を抜き出してみた(作図:山根一眞) 拡大画像表示

山根 中国が感染開始時から情報をすべて公開していれば、クルーズ船も安全策をとることができたのでは?
ウイルス「進化」のしくみ


根路銘 GISAIDのリアルタイムに近い情報の公開と共有が目指すところがそれでしょう。

山根 もし、多くのコロナウイルスに対応できるワクチンが実現すれば、クルーズ船の乗客はワクチン接種者に限る、という措置もとれますね。

根路銘 まさに、私たちウイルス感染症の研究者に課せられた大きな課題ですが、そういう議論が出ていないのは残念です。

山根 GISAIDの新型コロナウイルスの進化系統図は、3月に入って初めて明らかになったものて゛すか?

根路銘 違います。この系統図はGISAIDか゛日々更新をしており、インフルエンサ゛ウイルスの専門家たちは日々チェックをしています。

これには「2020-03-01_0400 UTC」と記してあります。日本時間の3月1日13時に更新されたものとわかりますが、このデータは連日、新たなテ゛ータか゛書き加えられているんです。

もっとも、この系統樹を見たからといって、効果的な対策か゛可能というわけて゛はない。しかし、少なくともそのコロナか゛と゛こから来たのかという「ウイルスの旅路」は読み取れます。船内に閉し゛込められたままた゛った乗客の皆さんも、ウイルスの旅路の片鱗か゛わかれは゛少しは納得されるて゛しょう。
進化という「遺伝子の複製間違い」

山根 それにしても、なぜ同し゛中国発の新型コロナウイルスなのに国や地域て゛違いか゛あるんて゛すか?

根路銘 ウイルスの増殖とは、自分と同し゛遺伝子を持ったものを複製することて゛すか゛、その複製を間違うからて゛す。

コロナウイルスは、もともと変異しやすいRNA(リホ゛核酸)という遺伝子を持つタイフ゜のウイルスです。
コロナウイルス新型コロナウイルスの模型(製作:山根一眞) 拡大画像表示

ヒトの肺胞の細胞にとりつくと、外殻(エンヘ゛ローフ゜)を脱き゛捨てて、RNA(遺伝子、リボ核酸)という自分の設計図をヒトの肺胞の中て゛働かせる。もちろん、それに至るまて゛の初期の旅路では、上気道という鼻や気管支といった細胞への感染も行ってのことて゛すが。

子孫を増やすために自分は死ぬか゛、設計図だけは送り込むわけです。

そして、人の細胞の中で材料をかき集めて子孫て゛ある複製をたくさん作らせます。こうして誕生した子孫が細胞からたくさん外に出ていくんです。外に出る時には、ちゃっかりと細胞の膜をちょうた゛いし自分の殻に利用して。

そうして誕生した子孫たちには親と同し゛RNAも入っていますが、その複製を作る時にちょっと間違える。その間違いの部分を調へ゛ることて゛、と゛こて゛増えたものかという「ウイルスの旅路」か゛わかるんて゛す。

山根 コロナウイルスの大きさを、私がテニスボールで作った模型とすると、人の大きさは頭が岩手県の花巻市、足の先は福岡市になる。それほど小さなウイルスが、そんな精密な作業をしているとは驚くばかりです。

根路銘 ウイルスはとてつもない仕事をしている。一方、大事なことは、この複製の間違いがウイルスの「進化」というものだということです。その「進化」によって、病毒性か゛強いものか゛出たり、感染性か゛低いものになったりする。

それはね、地球に誕生した最初の微少生命体が、進化という「遺伝子の複製間違い」を重ねて数千万種という現在の生物世界を築き上げてきた、生物の地球進化史と同し゛ことをしているのだということて゛す。

山根 非常に興味深いです。コロナウイルスとはいえ、その拡散は「進化」というダイナミズムと裏腹なんですね。

ところで、GISAIDのウイルス系統樹ですが、これは親から生まれたちょっと顔か゛違う子孫たちの「つなか゛り」を表現している?

根路銘 この図はウイルス遺伝子の型を見てつなか゛りを描いたものて゛とても役に立ちますか゛、ウイルスた゛けを見ていてはいけない。

ウイルスによる感染症は「ウイルスの旅路」を見抜かないといけない!

大きなウイルス感染症を抑え込むには「ウイルスの旅路とその顔色」を明らかにすることか゛第一なんです。

(続く 続編は3月中旬配信予定)